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 「ピックアップ」
 エレクトリックギターで一般的な磁石とコイルを使ったマグネティック・ピックアップとは違って、バイオリンの場合は「ピエゾ素子」という物質を使った、楽器のどこかの振動部分に密着させて拾いあげ、電気信号に変えているピエゾ・ピックアップが一般的です。

音を拾い上げる場所、つまりピックアップを設置する場所には、おおまかに三種類、駒の弦の下、駒、ボディのどこか、があります。
A) 駒の弦の下
  • 得られる音量がもっとも大きく、セパレーションに優れる(他の楽器のかぶりが少ない)
  • 倍音の少ないアコースティックとは離れた音色
  • レスポンスは速い
  • 駒とピックアップが一体になっているので、駒の交換作業が必要
  • B) 駒のどこか
  • 真ん中よりはE線寄り、ヘリやくぼみに挟み込むとか、設置場所には種類あり
  • 両面テープ、クランプで挟む、溝に挟み込むなど、方式もいろいろ
  • 脱着は自分でできるが、耐久性、安定性には劣る
  • 駒と一体型のもあり、耐久性、安定性、音量、音色に優れているが、駒のフィッティング作業が必要
  • A) と B) との中間的な性格
  • C) ボディのどこか
  • 脱着は簡単だが、両面テープなどを使うので、ニスへの影響は避けられない
  • 音色はアコースティックにもっとも近いが、音量、パワーやレスポンスは弱くなる
  • ハウリングやセパレーションには弱く、他の楽器の音が盛大に被る
  • バイオリンのボディは曲面ばかりなので、音のいい場所と着けられる場所が一致しなかったりする
  • 日本で手に入れやすい単体製品では、SCHERTLERFISHMANBARCUS-BERRYL.R.BAGGS、などがあげられますが、どれも一長一短です。日本の店頭で見かけるのは B)かC)で、A)の単体製品はまず見たことがありません。

    音の点だけで言うとL.R.BAGGSが一番自然でいいと思いますが、駒と一体化されたモノなので、駒ごとの交換、駒のフィッティング作業が必要です。一番普及しているのはFISHMANで、よく流通しているし、駒の溝に差し込むだけ、と脱着が簡単で、楽器にダメージを与える可能性が低いからでしょう。新しく入ってくるようになったSCHERTLER(これはボディへ付けるタイプです)も、ちょっと高いですが、なかなか音はいいようです。このボディに着けるタイプは、バイオリン専用としての他にも、アコースティック楽器用として汎用で出ているものもありますが、上の表に書いたように、バイオリンのボディに平らなところがなく、特に駒の近くは大きな曲面ばかりなので、きちんと着けられないことがあります。また、単体で弾いているときはいい音でも、いざ合奏したら、まったく事情が変わってしまう。他の楽器音がバイオリンのボディを共鳴させてしまって、バイオリンの音色を崩してしまうのですね。いい楽器ほど良く共鳴するので、この問題にあたりやすいのが皮肉です。

    YAMAHAのサイレントシリーズのピックアップは駒の真ん中と駒の直下と両方に設置してあるので、B) とC) の合体したもの、と言えるでしょう。しかし、それだからいい、とは言い切れないのが、難しいところなのですが。

     このほかに、A)のブリッジの弦がのっかる部分にピエゾ素子を埋め込んだタイプもあります。こちらはブリッジではなくて、弦の振動そのものを拾う、と言う考え方ですね。この方式はYAMAHAのEVシリーズ(生産完了品) のもの、ZETA(メーカー消滅) やBarberaなどがそうですが、「弦の振動をボディに伝える」と言うブリッジ本来の働きがほとんど必要ないので、ブリッジは原則として単なる構造材として機能するようになっています。そのため、ブリッジやボディなどの構造や材質からの音質への影響が非常に小さくなります。したがって、大きな音量にすると起きやすいハウリングにも強いし、エフェクターなどを使った積極的な音づくりにも向きます。なにより、大音量にしても他の楽器音が全く被ってこないので、サウンドをコントロールしやすいのが特長と言えます。また、ボディーのデザインなどの自由度も高いので、透明なアクリルボディとか、グラスファイバーの棒状のものとか、およそバイオリンのイメージからはかけ離れたデザインのがあります。ただし、弦が導電性のものでないとだめなものがあるようで、使おうと思った弦がこのせいで使えなかったことがありました。

     ピックアップ経由で演奏する場合、ピックアップの性能、音質が音の善し悪しの割合をかなり決めてしまうので、どれを選ぶかを慎重に決めた方がよいと思います。また、大まかに言って、簡単に着脱できるものは音色が軽くクセが出やすく、ねじ止めや粘着テープなどで付けるものは音色がしっかりとする傾向があります。
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