N O T E S
 重いこと、基本設計のせいで弦のテンションが低いこと
 エレクトリックバイオリンを手にしたときに、全員が全員「お、重いねぇ... 。」と言います。どうしても電気機器部分がある以上、アコースティックバイオリンよりは重くなるのは避けられない。しかもギターなどと違って、バイオリンは首のところの一点支持に近いので、その影響はとても大きくなってしまうのです。かつて使っていたZETAでも1キロちょっとあり、慣れたとはいえ、アコースティックから持ち代えたときなどにやはり重さを意識します。

 重さだけでなくバランスも重要なポイントで、ヘッドの方が重いと実際の重さ以上に重く感じます。むかし使っていたVi-tarと言うエレクトリックバイオリンは、楽器自体はグラスファイバーだったので軽かったのに、ヘッドに真鍮製のシャーラーのペグが5つもついているせいで、まるで首の筋力トレーニングをしているような感じでした。バイオリンのヘッドに1.5Kgくらいの重りを付けた様子を想像してみて下さい。音もまぁまぁよかったしデザインもかっこよかったんですけど、あの超トップヘビーのバランスでは、まともに弾けるのはボブサップだけでしょう。
 原田バイオリンでは、アコースティックバイオリンと100gくらいしか変わらないのですが、アコースティックしか弾いたことのない人が手にすると、一様に「あ、やっぱり重いんですね」と口にします。木製の重い肩当てを付けたアコースティックバイオリンの方がよっぽど重いくらいなんですが、見た目と、持ったときのバランスによる感触の違いがそう言う感想を産むのでしょう。YAMAHAでも他の楽器でも同様なのですが、エレクトリックバイオリンを設計するにあたって、原則として演奏時に感じる重量感をアコースティックに近づけるようにしていることがほとんどなので、重量物を身体側に集めていることが多く、手にした状態ではテイルピース側がアコースティックよりも遙かに重くなってしまいます。そのせいで、構えてみる前に、手にした時点で「重い」という先入観を裏付けてしまい、それがエレクトリックバイオリンを遠ざける一因になっているようですね。

 それから、弦のテンションの問題は演奏上とても大きな影響があります。ZETAは、アドバイザーのJean Luc Pontyの好みなのか、ピックアップの限界のせいなのか、テンションが低く設計されています。テイルピースは固定されており、調整はブリッジの高さを上げ下げできるだけです。調整用ボルトの限界ギリギリまで上げてもまだテンションは低めで、しかもその位置ではブリッジに埋め込まれているピックアップと弦の接触に問題が起きてしまうのです。エレキギターの弦を張ってみたりもしましたが、今は3/4ほどの高さにして普通にバイオリン/ビオラ用の弦を張っています。これだと、弓で圧力をかけるとすぐに音が飽和してしまうので、演奏全体をソフトに演奏するようにアジャストしています。最近ZETAの全モデルを試奏する機会がありましたが、重さや音質面ではかなり改良されていましたが、テンションの点は変わってませんでした。Mwtoだけが気にしている点かもしれませんけど、ZETAはピックアップ自体の音は優れているだけにきわめて残念なところです。

 現在メインで使用している原田バイオリンのソリッドボディのモデルはバーベラのピックアップを搭載しています。テンションは通常のバイオリンと変わらず、圧力をかけたときの反応なども違いはありません。ボディがないぶん、響きが少ないですから、違いと言えばそれくらいでしょうか。棒状のソリッドボディで、共鳴部分は非常に少ないのですが、実は中をくり抜いた手間のかかる構造なので、見かけよりもボディは良く鳴ります。特に低音弦を弾くと、他のエレクトリックバイオリンとは一線を画した弾き心地が得られます。

 YAMAHAのEV-205も、テンションはしっかりしています。大きなメーカーの強みを活かして、弦まで特注で作らせていますから、バランスも弾き心地も良好です。低音弦に行ったときに原田バイオリンほどの鳴りはありませんが、アンプを鳴らしていれば違いはほとんど感じないでしょう。まず「間違いのない楽器」だと思います。
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